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京都にて牛肉を食らふ

肉の種類は数あれど、やはり牛肉を一番好む人が多いのではないだろうか。

かく言う私も、牛肉には目がない。

 

とは言っても、牛肉ひとつ取っても食べ方は色々。日常の食卓には肉じゃが、ハンバーグ、牛すじこんにゃくなどが並び、ハレの日にはすき焼き、ステーキ、しゃぶしゃぶなどを食べることもあるだろう。

こうして並べるとやはり牛肉は献立のメインになることが多い。ただし、全ての料理に牛肉が含まれているわけではなく、日常にしてもメインの一品、あるいはコースの一部(例えばフランス料理のヴィアンドやイタリア料理のセコンド・ピアット)として提供されることが主流と言える。

 

しかし今回私の行ったお店は肉を堪能するための店であり、提供する(ほぼ)全ての皿が肉料理である。店名は安参。1948年(昭和23年)に創業し、現在は京都は祇園に店を構えている。店の中は1階が20人ほどが座れる長いカウンターで、2階が座敷である(今回はカウンターを利用した)。創業年から分かるように、京都の牛肉文化を支え続けた店の1つであるため、この文化を理解するためには訪問しておかねばならないと個人的に考えた。

さらにこの店は京都(あるいは関西)の食文化をも体現しているのだが、これらについては最後に述べるとして、まずは料理について。

 

なお、この店は前半がお任せ、後半がアラカルト方式になっている。

 

はじめに出てくる数皿については写真がない。これは店の側から写真撮影を禁止されているからである。料理としては、たん、はつ、赤身の刺身が1種類ずつ、そしてミノの湯引き。

 

たんは弾力もありつつも、とろける食感であり、肉を魚で例えるのも失礼だが、さながら鮪を食べているかのよう。はつはシャクシャクとした食感であり、ニンニクと一緒に頂く。赤身は卵黄とニンニクと共に食べることで、ねっとりと柔らかい食感。そして最後にミノの湯引きをポン酢でさっぱりと。淡白な味わいで、てっさをイメージさせられる。

 

その後箸休めのサラダが提供され、アラカルトで好きなものを食べさせてもらえる。まずは焼き物。牛タンの塩焼き。先ほどの刺身とは異なり薄切りで、塩加減は完璧。

次にレバー。味付けはタレと山椒であり、たっぷりと葱とからしとともに頂く。中が半生の状態のため、サクサクとした食感ととろける食感が両立する。もちろん、臭みなどない。

そして最後に名物の煮込み。今回はこんにゃくや卵の入ったミックスを選択した。見た目の反して思ったよりさっぱりしており、薄味であったため、若干拍子抜けしてしまった。

 

書き忘れていたが、冒頭にきゅうりの浅漬けが提供される。これもコース全体における箸休めの役目があるのだろう。

以上が全ての料理である。今回とりわけ印象に残った皿は、たんの刺身とレバーの焼き物。それぞれ興味深い食感を体験させてくれ、かつ肉の奥深さを再認識させられた。

牛肉の種々な部位を様々な形で提供してくれる。その中には継ぎ足しの煮込みなど伝統的なものもあれば、刺身といった挑戦的なものもあり、いかにも伝統重んじつつも、ハイカラな京都人らしい。まさしくこれが京都の牛肉文化の一側面なのだろう。

 

ただし印象に残ったことはそれだけではない。この店は京都(関西)の食文化を体現していると先程述べた。とりわけ、店と客のコミュニケーションが印象に残った。

 

このお店は家族経営の老舗であり、京都の祇園という場所柄もあり、接客をとっても常連と一見客を区別しそうに思える。しかし、実際は常連と一見客分け隔てなく、親切に接してくれる。とりわけ、私の席の担当である若若女将は常連をさばきつつも、一見客の様子に気を配り、飲み物や食べ物のことなども必要とあらば丁寧に説明をする見事な接客であった。祇園という閉鎖的空間において、どんな人も受け入れるその姿勢はこの店の老舗としての心意気と寛容さから来るのだろう。

一方で、店と常連だけのコミュニケーションももちろん存在する。例えば、常連客が店の人全員にビールをご馳走し、店の人はお礼を言って目の前でビールを飲む一連のシーンは感動してしまった。なぜならば、私が幼少期の頃、祖父が馴染みの鉄板焼きの店でよくフロアのスタッフにビールをご馳走していたからである。店と常連の信頼関係によって成り立つ一連のやり取りは、見ていて気持ちの良いものである。

 

料理屋に行くということは、単に食事をするだけに止まらない。空間を楽しみ、人との対話を楽しむことも、料理屋の楽しみ方である。そういった意味で、私としては京都の、いや関西の食文化を久しぶりに堪能させてもらった。

こうして私は店を出、赤提灯に再訪を誓った。

そして満足感に浸りながら、大通りの喧騒から離れた祇園の夜道にふらふらと溶け込んでいった

 

2023年6月

 

(追記:なお京都市からは食肉の生食に関する注意喚起がなされている。生食は背徳的な満足感を得ることができ、また生食に関する行政の基準も厳格に設定されているが、あくまでも自己責任で)https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000100853.html