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京都にて初夏を思ふ

「鱧が食べたい」

 

欲望とは、時として忽然と生じるものである。自らの欲望に気づき、そうして私は今が初夏、すなわち鱧の旬であることを思い出した。

 

旬を殊更に意識し始めたのはフランスにて遊学していた頃である。かの地では、マルシェにて食材を購入することを習慣としていた。何度か買い物をすると、顔馴染みもでき、その季節の旬の食材を勧めてもらっていた。その際、親切にも食べ方まで教示してくれるのだが、その方法は大抵の場合至極単純なものであり、食材本来の味を大切にするものであった。そしてこの食べ方がなかなかに美味いのである。こうして私は旬の食材のポテンシャルを知り、日本に帰国後も食材の旬を大事にするようになった。

 

斯様な意識があるため、私は欲望に忠実に従い、京都にて馴染みの店にて鱧を食すこととした。店の屋号はてらまち福田。四条通りを少し下ったところにある。接客に時々ブレがあるものの、居酒屋のような価格帯に関わらず、丁寧な仕込みと調理がなされているので気に入っている。

 

まずは目的の鱧。鱧の落としとフライでいただいた。落としは丁寧な骨切りがされていることもあり、ふわふわとした食感で、旨味が口の中に広がる。フライは見た目より軽やかであり、山椒が良きアクセントとなっている。

次に品書きを見て思い出した、こちらも旬の稚鮎の天ぷら。鮎の苦みが夏酒とよく合う。

締めに鯖寿司。勝手ながらこの店の名物と考えている。脂はあまりのっていないが、さっぱりとした食感であり、これはこれで乙なものである。相変わらずの絶品。

 

当初は鱧だけを目的としていたが、思いのほか旬を感じることのできる夜であった。

去り際に店主と少し言葉を交わし、外に出るとすでに京都の夜は蒸し暑くなっていた。しかし、心は不思議と軽快なものであった。

 

2023年6月